人間の生涯には、さまざまな意味で節目がある。死はいうまでもなく、人生最後の節目であろう。死のタイミングについて考えることは、あまり表立って議論されることが少ないが、人間の人生を総括する重要なテーマである。本稿では、一般的な普通の人を考察対象とする。
先天性の障害といった本人になんの責任もないような特別な事情を抱えた人々は考察対象ではない。また、他者に迷惑をかける犯罪を犯してしまった人も考察の対象外とする。
早すぎる死とは
早すぎる死は、多くの場合、明るい未来を奪われるものである。若年層の事故死や病死はその典型例だろう。これらの死は、本人の才能や可能性、あるいは成し遂げようとした目標が未完のまま終わるため、悲劇とされる。例えば、将来の夢に向かって努力していた青年が、不慮の事故で命を落とすことを想像してほしい。彼の人生にはまだ可能性が多く、社会や周囲の人々に貢献する余地が大きかったはずである。このように、早すぎる死は、本人が生きることで享受できたはずの喜びや成果、そして周囲がその存在を通じて得られる価値を断ち切るものである。
では、どのような状況で「早すぎる」と言えるのか。それは、十分に実現可能な未来が失われる場合に当てはまる。たとえば、人生の目標を持ち、それに向けて着実に歩み始めている人が途中で命を失うことだ。その未来が明るければ明るいと想像されるほど、その死は「早すぎる」と痛感される。
遅すぎる死とは
一方、遅すぎる死は、思考力や記憶力の著しい衰えから自分の日常を独力で営む事が出来なくなり、周囲の人々に多大な負担をかける場合を指す。現代の医療技術は驚異的に進化しており、寿命を伸ばすことは可能になっている。しかし、その一方で、高齢者の介護問題は深刻さを増している。特に、本人が十分に自立した生活を送れなくなり、周囲の人々に介護やケアの手間やコストを過大に要求するような状況では、その死は「遅すぎる」とされるだろう。
なぜなら、本人自身がそういう自分が生かされている状態を、思考力のあるかつての自分自身が拒絶するだろうから。
たとえば、介護を必要とする期間が長引く場合、家族や介護者に肉体的、精神的、さらには経済的な負担が積み重なる。本人が長寿を全うすること自体は尊いが、その結果として周囲の生活が疲弊し、家族関係が悪化することも少なくない。このような状況は、本人にとっても、家族や社会にとっても決して望ましいものではない。
丁度良い死のタイミングとは
では、「丁度良いタイミングの死」とは何だろうか。すごく平たく言うと、人としてなすべきことを成し終え、かつ周囲に介護やケアの負担をほとんどかけない形で人生を終えることだ。
人間が生きていく中で、「なすべきこと」とは、個人ごとに異なる。家庭を築き、子供を育てることかもしれないし、仕事を通じて社会に貢献することかもしれない。また、自身の人生を通じて学び、自己実現を果たすことも重要な目的の一つだろう。これらの目標を達成し、自らの人生に満足感を覚えるとき、その人の生はある種の完成を迎えると考えられる。
さらに、理想的な死のタイミングは、周囲への負担が最小限であることも大切である。たとえば、自分の生活を自分で管理できなくなる前に、自分自身の生涯を総括できる機会があると望ましい。それは、周囲の人々との別れを前向きに受け入れ、感謝を伝える時間を確保することでもある。
現代社会における課題
現代社会では、寿命が延びた結果、「丁度良いタイミング」を見極めることがより難しくなっている。医療や福祉制度の発展は高齢者に多くの選択肢を与えるが、それは同時に、人生の終わりにおける質の低下をもたらす可能性も含んでいる。
特に、延命治療や過剰な医療介入は議論の対象となっている。これらの医療行為が、本人や家族にとってどれだけの幸福をもたらすのかは、一概に測れない。したがって、自身の死のタイミングについて考えることは、他人任せにするべきではない。事前に意思を示し、家族と話し合うことが、理想的なタイミングを迎えるための一歩となる。
結論
死のタイミングについて考えることは、生き方そのものを考えることである。早すぎる死も遅すぎる死も、それぞれに問題を抱えている。丁度良いタイミングの死を迎えるには、自分がなすべきことを見定め、それを達成するために努力しながら、人生の終わりについての準備を怠らないことが重要だろう。周囲に与える影響を最小限に抑え、自分自身も満足できる形で人生を終えることが、真に「丁度良い」死といえるのではないだろうか。
今回は以上とする。