医者って、なんかズレてるというか、望んでなかったのに検査されちゃったよ…とか、そんな風に思うことがあると思う。
今回は、どうしてそういう事が起きるのかを『理屈コネ太郎』がコネてみたい。
間違いはいつものようにスルーでPlease
まずはじめに明確にしておきたいのは、受診者から見て、医者はそもそもからズレた存在なのだということ。
そしてそれは逆もまた然り。医者から見た受診者もズレている。
医者が関心を持つのは、受診者の体内で起きている生物学的な事象であって、受診者の心配や憂慮や、ましてや体調不良についての受診者独自の原因分析ではない。
互いに相手をズレていると感じているのは何故だろう。
この2者の視点の相違によるズレを、米国の医療社会学の泰斗エリオット・フリードソンは『対立する視点(conflicting perspectives)』と言った。1970年頃のことである。
2人の人間が出会い、何等かの共同作業を始めたら、2人の立場の違いから、色々な利害の衝突が起きるのは当然だ。
親友同士の間でも、夫婦間でも、利害の衝突は起きる。
この単純な事実は、患者・医師間にあっても当然起こる。
2者の立場の違いは当サイト内『医師はなぜいつもせっかち?不機嫌?』を開いて参照して欲しい。
しかし、患者・医師間にはもう1つ別の、すなわち第3の”立場”が関与するのだ。
これが、かなり話しをややこしくしていてなかなかわかりにくい。
ちょっと分かりにくい構図なので、卑近な例で説明すると、実家の影響下にある配偶者みたいな感じ。
目の前にいる配偶者とあなたとは本来1対1関係の筈なのに、配偶者は実家を影響下にあるので、あなたにとって意味不明にズレてしまう。
実家という見えない第3者がジワーっと介入している。そんな感じ。
このたとえ話では実家に相当する、もう1つの立場とは、本邦の医療提供体制の立場である。立場というか、理念というか、規則って言葉が1番適切か。
なんの事かわからないと思うから、『理屈コネ太郎』の能力の限りを尽くして簡単かつ正確に書いてみる。
医療提供体制とは、①医師をはじめとする医療専門職を養成し、②必要な技能を習得させ、③実際に医療現場で働いてもらい、④彼らが安心して専従でき、かつ受診者負担がリーズナブルな範囲内となるようなファイナンスをする、という仕組みの全てを一括してさす。
①は医学部・歯学部・薬学部などの教育課程、②研修病院での臨床研修、③は各医療機関、④は健康保険、である。
これらは全て、端的に表現すれば国家事業である。医師の数、病床数、診療報酬、健康保険料、窓口負担率など、すべて国あるいはそれに近いレベルの機関で決定されている。
日本の医療提供体制は、『理屈コネ太郎』なりに世界を見回して知る限り、わりとよい仕組みだと思っている。
米国では、高給取りの心臓外科医が心臓弁膜症を患ったときに、その治療費が天文学的に高額すぎて支払えないという事例があるくらいだ。
日本では、弁膜症くらいではこういう事は起きない。
日本は、所得連動型の公的健康保険があるし、生活保護もある。更に高額医療費還付も国の仕組みとして整備されているので、差額ベッド代さえなんとか工面すれば、医療を受けられない人は少ない制度なのだ。
「民間医療保険なんてやめなさい」って本が売れるくらい公的保険と税制の仕組みが整っているのだ。
そうした良い医療提供体制なのだが、その体制を維持するために、国も医療機関も四苦八苦している。
国は医療現場が困惑するようなルールを度重ねて課してきた。
医療法、医師法、診療報酬体系、療養担当規則と、医療関係の決まりごとは膨大だ。
医療機関や法人の設立要件から、使える薬の種類や量、期間にいたるまで事細かく決まっている。実施できる検査の種類や回数も決まっている。
このルールは非常に複雑で、普通の人ではまず直観的には理解できない。おそらく、労働法と税法を掛け算したくらいに奇怪なのだ。
国レベルの役人かそれに近い人達が構築したルールだから、公正だがかなりわかりにくい。
分かりにくいのだが、「わかりにくいので従いません」で許してくれないのが国だ。
現場の医療従事者はなんとかルールをクリアしながら診療を成立させているのだ。
この、なんとかルールをクリアしながら…ってところが、受診者からするとズレているように見えるのだと思う。
そもそも、2人の人間同士は互いにズレている。そこに加えて、見えない第3者の思惑が絡んでくるのだから余計にズレてくる。
実家の親のコントロールから逃れられない配偶者をみるような気持ちで、これからは医者をみると良いと思う。
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