以下あくまで『理屈コネ太郎』の管見内での私見なので、その点を銘記して読み進めて欲しい。挿入法に悩む人の助けになれば幸いである。
結論を先に述べれば、初心者は直腸残液吸引や、無送気にこだわる必要はない。特に炭酸ガスを送気ガスで使用する施設なら尚更である。
下部消化管内視鏡検査は、その手技の習得の困難性から、挿入法に関する書籍が多く刊行されているし、動画も豊富に流布している。
こうした書籍や動画内で多くの挿入名人達が仰るのは、直腸では出来るだけ残液を吸引して腸管を虚脱させる事と、無送気で粘膜をかき分けるように深部に進入するということ。
初心者のうちはあまりこうした事は気にしなくて良いと思う。
左側臥位であれば、直腸は殆どの場合S字結腸のより高い位置にあるので、ここで多少の送気をしても、その気体がS字結腸に進んでS-Topの屈曲を強くして挿入を困難にしたり、Ptを痛がらせるたりすることはあまりない。
もし直腸での送気がS字結腸に入るのが心配なら、直腸挿入後に極々うすいガスコン水(私はガスコン水では透明度が低く粘膜が見えなくなるので、水道水を用いている)を50ml位注入すればよい。
その重さでS字結腸前半部は直腸よりも低い位置に移動する筈だ。
その後にほんの少し送気して管腔を展開させる。このガスは直腸に溜まるのみで、S状結腸に入っていかないのが良く分かると思う。
挿入だけに話を限れば、Ptに苦痛を感じさせず、出来るだけ短時間で盲腸まで到達する事が内視鏡医の使命の全てである。
故に、直腸での残液吸引で管腔が完全にとじてしまい進路方向を見極められずにS字結腸に進めず検査時間が長引いては本末転倒であろう。
Ptの苦痛を最小化して、かつ可能な限り短時間で盲腸まで到達するために、初心者は下記の2点に最大限の注意を払ってほしい。
第一に、右手に感じるスコープの感触からスコープと腸管の関係性を解釈することだ。
とくにスコープと腸管の接触摩擦によって腸管を伸ばしてしまっている感触や、屈曲する腸管壁にスコープの一部が垂直に近い角度で当たるときに生じる強い抵抗を感じ取る事。
第二に、スコープをプッシュした時にほとんど抵抗がないような進路を、スコープ軸の回転、アングルやトルク、プッシュやプル、ジグリング、注水や送気や吸引、硬度変更、体外スコープの操作、体位変換や用手圧迫等のありとあらゆる手段を次々に繰り出して積極的に見つけ出す工夫をすること。
そうすれば、盲腸まで到達したスコープが大腸の生理的可動範囲内と一致している状態に結果的になっているはず。
このような挿入操作であれば、Ptを痛がらせる事もなく、またその後につづく観察や生検、内視鏡的治療の操作もラクになる。
この目標のために、ご自身の経験からもし直腸での吸引が必要だとおもうようになれば、その時に直腸の残液を吸引すれば良いと思う。
実際に『理屈コネ太郎』の周囲では、直腸の残液吸引に拘っている内視鏡は全くいない。
もしかしたら、挿入法の本を出版したり動画を出すほどの達人レベルになれば直腸の吸引は意味があると理解できるのかもしれないが、『理屈コネ太郎』周囲の普通の内視鏡医には、直腸の吸引を気にしている人はいない。
ここでいう普通の内視鏡医とは、盲腸到達率ほぼ100%でEMRを日常的に実施しているレベルである。
繰り返して恐縮だが、挿入手技の目標は患者に痛みを感じさせずに出来るだけ短時間で盲腸まで到達する事。
これができていれば、自然と盲腸まで到達しているスコープが大腸の生理的可動範囲内と一致している状態になる。
この目標の前には、直腸残液吸引や無送気挿入は初心者にはあまりに細か過ぎるテクニックだ。
とにかく、初心者は直腸の残液吸引や無送気に拘る必要はないと思う。
まずは平均的な内視鏡医になろう。直腸残液吸引と無送気にこだわるのは、名人を目指すと決めたその後で十分である。
今回は以上。
当サイトの他のコンテンツにご興味あれば下記よりどうぞ。
当サイト内『コンテンツのページ』へは”ココ”をクリック
『若き医師達・医学生達への伝言』へは”ココ”をクリック