推奴(チュノ)、韓流ドラマ最高の作品

時は李氏朝鮮時代(Wikipedia李氏朝鮮時代の頁を開く、当時の人口の数パーセントと言われる少数の両班(Wikipedia 両班の頁を開く)が多数の奴婢を所有していた頃。

両班の男(イ・テギル:演チャン・ヒョク)と奴婢の女(オンニョン:演イ・ダヘ)が恋をした。男は女を娶りたいと父親に願い出るが、父親は身分違いを理由に結婚を認めない。

それでも、2人はひっそりと心を通わせていた。そんんなある日、屋敷に盗賊が忍びこみ、放火する。

燃え盛る炎の下で焼け落ちる天井に顔面を受傷するテギルを目撃したオンニョンは、彼はもう助からないと思いこみ、炎の中、避難を促す兄に手をひかれテギルをやむなくその場に置き去りにして逃亡する。

そのオンニョンは、同じく奴婢の兄の計画により、両班の地位を金で買う事に成功し、しばらく兄妹は両班として平穏に生活する。

しかしイ・テギルは生き延びていた。両班の地位を捨てて逃亡した奴婢を追跡し捕縛する仕事についていた。そのSlave Hunterの仕事こそ推奴師である。

放火の日、目の前で逃亡したオンニョンを探すために。男は仕事の傍ら、かつて自分の屋敷の奴婢であった愛するオンニョンを探し求める日々を送る。

一方、両班の地位を手に入れたオンニョンは、兄の計らいで両班の家に(たぶん後妻だったかな?)に嫁ぐ事になる。

しかし、オンニョンの心の中には、死んだ(と思っている)テギルの面影があった。オンニョンの胸中にはテギル以上の男性はいない。彼の面影を抱いたまま、好きでもない男に嫁ぐ気になれず、オンニョンは結婚式当日に逃亡する。

逃げて逃げて逃げまくる。

この逃避行中、女は屈強な男(ソン・テハ:演オ・ジホ)に出会い、何度も命を助けらえる。この男も実は逃亡者であった。

かつては政府の高級武官であり、宮中高官の悪事を知悉し、朝廷正当後継者『石堅』を守る使命を背負っていた。

石堅は祖父である仁祖に父である昭顕世子を殺され、そして石堅は済州島に幽閉されていた。

ソン・テハは石堅のその状況を救いたいと思ってくるのだ。いつか訪れる石堅救出機会を待つため、ソン・テハはその意図を隠し抜くために奴婢に身をやつし、”心が折れて落ちぶれた元高級武官”の汚名に長年耐えている義と信念の男であった。

そして、ある事件をきっかけにして本来の宿願を果たすためついにソン・テハは決起脱走したのである。

逃げるオンニョンはともに行動するソン・テハに次第に惹かれていく。そして、オンニョンは死んだ(と思っている)テギルの面影を抱く事をやめて、この義の男ソン・テハと新しい人生を歩む事を決意して、ソン・テハの愛を受け入れる。

そこに、この2人を追って元両班の推奴師、イ・テギルが追跡者として登場する。世捨て人の推奴師には義の男ソン・テハの目的には関心がなく、また女がかつて愛した元奴婢であることはまだ知らない。ただ仕事として捕縛するために追跡してきたのである。

そして3人は邂逅する。女はかつての恋人が生きていた事をしり、推奴師は女が新しい愛を得たことを知り、義の男は女の過去を知る。

ドラマは、朝廷の腐敗した政治と、両班・奴婢という身分制度の2つを軸に、登場する多様な人物の合理性と人情、野心と愛を鮮烈に描写しながら淀みなく突き進んでいく。登場する全ての人物に乾杯って感じだ。

推奴師テギルと義の男ソン・テハの間の生まれる、友情という陳腐な言葉では表現しきれない関係性は、信念に殉じる事を厭わない者同士だからか、あるいは同じ一人の女性を愛した者同士ゆえか。

イ・テギルは両班の家に生まれ官僚機構の中で一生を生きるのだと思っていたのに、盗賊に家が燃やされて没落したために、チュノとなって生き抜こうとする。彼は行動原理を変えたのだ。

一方ソン・テハは物語の間中、全く同じ人物であった。ソン・テハは既に物語開始以前から完成された行動原理をもっているのだろう。心が折れた落ちぶれた奴婢を演じ切るには鋼のメンタルが必要だ。

テギルもテハも自らに課せられた宿命を受け入れつつ、それぞれのやり方で女を愛し、それぞれの道を貫き通す。

そして最後は、これしかない!って納得のエンディングを迎える。

基本的に韓流ドラマにPart2がない。人気が出たら2匹目のドジョウを狙うような姑息な思考回路があったら、乾坤一擲のドラマは作れないからだろう。

韓流ドラマの凄さの起源はその一撃必殺な感じに由来するのだと思う。

本作、推奴は、まさに一撃必殺の名作である。

 

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