医者のプライドってそんなに高くない

巷間、「医者はプライドが高いから〇〇〇だ」みたいな言説が流布しているが、それは今日では正しくない陳腐で時代錯誤のステレオタイプ的な考えだ。そのステレオタイプ思考が間違っている理由を現役医師である『理屈コネ太郎』が説明したい。

すこし脇道にそれるが、人々が医者のプライドが高いというステレオタイプ思考を持つ社会的背景を先ず考察してみたい。

多くの人がそれなりに同意するだろう3点をとりあえず挙げてみた

①簡単につける職業ではない
②所得が高い
③業務内容が高度

他にもあるかもしれないが、だいたいこんな所だと思う。

さて、今日では、上記3点において、医者より高いレベルの職業は多数あることを強く指摘しておきたい。

医者のプライドがそれほど高くなりようがないと『理屈コネ太郎』が主張する所以だ。

例えば、毎日テレビに出ている司会者、役者、歌手、そういった芸能人。

才能と努力の結果としての彼らのポジションは、誰もが手に入れられるようなものではない。

テレビなどの芸能の世界は、多くの人がチャレンジし、挫折し、他の世界に行き場所を求めて退場する世界だろう。

そして、年収にいたっては、平均的な医師の年収を遥かに超える人が普通にいる世界だ。

他にも、旅客機のパイロット、行政の首長クラス、外資系金融機関のサラリーマン、法人相手の知財専門弁護士、プロ野球選手、Jリーガー、それから最近では売れてるブロガーやYouTuber達も忘れてはならない。

ざっと世間を見回しても、医者以上に難度の高いポジションにつき、医者以上に稼いでいて、医者以上に高錬度のスキルが求められる職業は沢山ある。

そしてそういう事情は、医者達もよく知っている。だからだろう、医者の生活も最近は随分と質素になった。

高級車に乗る人や高額な分譲マンションを購入する人の割合は依然にくらべてぐっと減っている。

『理屈コネ太郎』の知る限り、そういう高額物件を購入する医者は、配偶者が見栄っ張りか、実家が資産家である場合が殆ど。

たいてい、前者だけど。

さて、ふた昔前は、市中銀行では、借入希望者の職業が医師というだけで融資枠が設定できたが、今は医師は多少は所得が高い人ってくらいの括りでしかなく、所得、借入、担保など、債務者としての能力を普通に精査される時代だ。

多少所得が高くても、それ以上に浪費癖があれば、もう貯蓄がないどころか、ただの借金ばかりの人だ。

ただ今は、(2020年11月)は、現金が市中にだぶついているので、そんな借金医者でも資金を借り入れ出来るかもしれない。

あ、でも無理かな、担保がなきゃ。

要するに、医者はそれほど難度の高いポジションではないし、所得だって中の上か、よくても上の下くらいだし、業務内容だってもっと高度なスキルを求められる業界はたくさんある。

そんな状況で高過ぎるプライドを持っている医師がいたとしたら、ルーキーか、あるいはちょっと鈍い医者だ。

医者のプライドが高いと世間から指摘される直接の原因は、医療現場で受診者達に、態度が悪いとか、威張っているとか、不機嫌だとか、セッカチだとか、そういう印象を与えてしまうからだろう。(当サイト内『なぜ医者はいつもせっかち?不機嫌?』は”ココ”をクリック)

実際にそういう態度をとる医師は少なくないが、それは決して彼らのプライドが高くて受診者を見下しているからではない。

医師という職業の特徴は数多いが、どんな人でも受診者として遇しなくてはならない点が、おそらく他の職業とは大きく異なる点だろう。

老若男女、年齢、所得水準、学業履歴等や職業(医療機関受診者のなかには、職業的犯罪者もいたりする)には関係なく、あらゆる属性の患者を平等に診察しなくてはならない。この点は、法的に定められているし、倫理的にも当然だが、ビジネスの視点で考えるとかなり異様ではある。

こういう顧客を選べないという特徴を持つ業種は、医療(健康保険適応)以外では、『理屈コネ太郎』が思いつくのは役所の窓口業務くらいかな。ただし、役所の窓口担当は公務員だけど。

医療機関の待合室には、無自覚だが体内に進行癌をかかえている人、指先を包丁で少し切っただけの人、職場で咳を数回したら上長から受診しろと業務命令された人、炎天下で畑作業していたら熱中症で倒れた90歳の人、などなど色々な人が診察の順番を今か今かと待っている。

そして、路上に倒れていた人が発見されて、そばを通りがかった人が親切心から119に電話して、救急車で搬送されて来た保険証も財布も身分証明書もなにもない意識不明の受診者。

こういう様々な受診者を、スタッフの勤務時間の中で診断し、治療方針を決定し、他病院への搬送が必要な人は搬送先を探して相手の了解を得て搬送のための手続きを開始する。

その際、一般に紹介状と呼ばれる診療情報提供を書かなくてはならない。この書類を書くのに通常はどんなに急いでも5分はかかるのだ。

医者が紹介状を書いている5分、待合室の全員が5分待つ事になる。

このように、バックヤードではドタバタした状況のなか、難聴で認知症の92歳の受診者が家族につれてこられて受診して来たりする。

当然、受診者本人の話しは要領をえず確度は低い。そこで同席している家族に話しを聞くのだが、家族は同居しておらず、今日たまたま顔を見に行った際に腹が痛いというので急いで連れてきたという。

病歴を推察するためにお薬手帳を見せて下さいと言うと、急いで来たのでお薬手帳は家に置いてきてしまったとの事。もちろん、補聴器も持ってきていない。(当サイト内『患者が知っているとリアルに役立つ豆知識』を開く)

そこで受診者にお腹が痛いのかと大声で尋ねると、腹が痛い事なんて今までだって1度もないとの返事。

どっと疲れる瞬間だ。

もしこの受診者に何十分も投入できる余裕があれば、それはそれでそれなりに対応できるだろう。

しかし現実は、待合室には何人もの初診の受診者が待っている。彼ら、彼女らの体内で何が起きているのかわからぬまま、待合室で待たせている。

自覚症状は軽微ながらも、落命ギリギリ一歩手前の状態の受診者だっているかも知れない。

だから、この難聴、認知の腹痛?の高齢者には、家族が同意すれば出来るだけの検査をすぐに行なって、帰宅しても大丈夫かどうかの判断をしなくてはならない。

家族が検査を望まない場合は、その旨をカルテに記載して帰宅となるが、その間約10分、何の進展のない時間を医者は送る事になる。

繰り返すが、この10分は待合室の全ての人々が待っている時間でもある。

公正を期すために、家族の視点からの状況も記載してみよう。

診察室に呼ばれた時点で受診者とその家族は1時間以上待合室で過ごしている。

診察室ではせっかちな医者が色々と質問してくるが自分達だって同居しているわけではないから何もわからない。

医者はやや不機嫌に、検査を奨めるが、それにどれだけ時間がかかるかと尋ねたら、他にも検査を受ける受診者が大勢いるし、途中の検査次第では今日1日かかるかも知れない…ってハナシだ。

家族は職場に事情を話して数時間の時間をもらって来たのだから、今日1日は付き添っていられない。

本人も今は腹は痛くないって言っているし、今日は一旦帰って、また腹が痛くなったら連れてくればいいか、って思ってる。

と、そんな具合だ。

医者の態度が悪かったり、セッカチだったりするのは、決してプライドが高いからではない。多種多様で多彩な背景を持つ受診者に出来るだけ医学的ベストな対応をしようとすると、どうしたって時間が不足気味になる。

だから、医者はせっかちで不機嫌なのだ。(当サイト内『医者はなぜいつもせっかち?不機嫌?』の頁を開く)

難度の高い職業だったり、所得が高かったりして、医者のプライドが高い時代は過去に確かにあったが、今はそういう時代ではない。

医者よりも高難度で、高所得で、高スキルな職業は世の中に沢山ある。そして医者達はそれを知っている。なので、そんな事を根拠にプライドを高くはしない。

『理屈コネ太郎』的には、もし自分がプライドを持っているとしたら、それは上記のようなややカオスな状況のなかで、受診した全ての受診者に考え得る限りのベストな診療をし、日々スタッフの業務時間内で業務を終えている事に依拠するかな。それだけかな。

もはや、医師、弁護士、公認会計士等は、エリートなどでは全然ない。他の仕事に就けない、いわゆるツブシのきかない人材の集団なのかもしれない。

今回は以上。

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