たかみち著『百万畳ラビリンス』 僅か2巻の傑作漫画

礼香と庸子、2人の女子が繰り広げる冒険譚。最期は不思議な感覚だけど後味のよい終わり方。

『理屈コネ太郎』が、たかみち著『百万畳ラビリンス』に理屈をコネる。間違いはスルーでPlease.

主人公は同じ大学に通う女子大生2人組の礼香と庸子。ゲームのバグを発見・報告するアルバイトで知り合いルームメイトとなる。

奇行と独善が目立つ礼香と、その礼香とそれなりに折り合いをつけて生活する庸子。

そんな2人は、あるとき空間が歪んだ不思議世界に放り込まてしまっている事に気付く。

そこは、ある時は他人の生活の痕跡は多々あるものの、2人以外の人間が見当たらない場所。

また別の時は大勢の人間はいるが2人は透明人間になってしまう場所。

そしてその2つの場所は独特かつ強固なルールによって全てが支配されている場所であった。

2人は不思議世界のルールを独自に発見し、ルールのバグを利用しながら、不思議世界での生存(つまり攻略)を試み続ける。

当初は奇行と独善と思われていた礼香の行動は、実は常識に縛られない独特な合理性の現れだった。

礼香は、目の前で起きた現象からルールを推察し、実験して検証し、推察が正しければ現象を再現できるようになる。

礼香はまた、ルールとルールの隙間にある、目立たないルールを見つけて自分に都合よく活用するという稀有な才能の持ち主であった。

礼香は言う「やれることをやっているだけ」と。庸子は思う「この不思議世界でやれることを見つけ出せるのは礼香は凄い」と。

不思議世界に放り込まれる前の礼香は、その稀有な才能ゆえに、他者に理解されにくいタイプだった。悲しい家族環境もあった。そのため、礼香は幼いころから心に孤独を宿している。

礼香は庸子が驚くようなスピードで不思議な世界に順応し、適応して楽しそうに生存方法を確立していく。

やがて礼香は、不思議世界のルールを把握しつつ、自分はこの不思議世界に残り支配者として君臨したいと思うようになる。

そうしたなか、第3の人物が2人に交信してきた。第3の人物は、不思議世界の意味とそこから脱出し最終的に問題を解決し、元の世界に戻るための手段を提示する。

しかしその解決手段はとても大きな代償を伴うものだった。第3の人物によって提示された手段を実行するかを決断できぬまま、第3の人物との交信は絶たれ、2人は暫く不思議世界を彷徨うことにする。

しかし礼香のアタマの中には、彼女だけが発想できる別の解決方法があった。ただそれには彼女が不思議世界で生き抜くうちに思いついたある仮説が真でなければならない。

第3の人物から自分達の置かれが状況を説明去れてい以降、庸子はそれ以前と比較して格段に生き抜く事に熱心になる。

庸子の変化を理由を礼香は庸子の寝言から偶然に理解する。

庸子には問題を最終解決して元の普通の現実に戻りたい理由があったのだ。

一方、元の普通の世界では奇行と独善で社会に受け入れられていなかった礼香は、自分の能力を存分に発揮できる今いる不思議世界の方が生き甲斐を見つけやすい場所だった。

礼香は元の普通の世界に戻りたいとは思っていない。

庸子は元の世界に帰りたい。礼香は今の不思議世界に留まりたい。

2人が別れる時だと礼香は思った。礼香は庸子を安全な場所に送る事を決意する。

別れのとき、庸子は、第3の人物によって提示された大きな代償を伴うプランを、礼香が受け入れないと分かっている。礼香はいつだって他の誰もみつけられないバグを見つけて利用するゲーマーだから。

そして礼香は、自ら立てた仮説を信じて不思議世界の秩序にたった1人で立ち向かう決意をする。

庸子が礼香と別れて2年が過ぎた。庸子は元の普通の生活に戻っていた。

そして礼香は、その特異な才能と行動力で不思議世界の支配者として君臨していた。不思議世界を百万畳ラビリンスと名付けて。

たかみち著『百万畳ラビリンス』は、少年キャラ達が名セリフを大声で叫ぶような場面は出てこない。

たった2巻で壮大な世界観と、個性豊かな3人間の心象風景を優しく柔らかく描写した傑作である。

すこし趣は違うが、同じ僅か2巻の短編傑作漫画は他に、こうの史代著『さんさん録』がある。こちらもお奨め。当サイト内当該頁を開く

また全4巻と本作より少し長いが、世界観と人物描写とストーリーの完成度の高さでは本作に並ぶ名作、幸村誠著『プラネテス』もお奨めしたい。当サイト内当該頁を開く

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