ニューヨーク(以下、NY)のマンハッタンを舞台に、4人の女性の恋愛や友情、日常を描いたドラマ『Sex and the City(SATC)』。その後継シリーズとして『And Just Like That…(AJLT)』も制作され、キャリー・ブラッドショーの物語は続いている。
このドラマの興味深い点の一つは、主要キャラクター4人のうち誰一人としてNY出身者がいないことだ。彼女たちは地方からNYにやってきた”Non-Native New Yorker”であり、その背景はドラマを通じてさまざまな形で表現されている。キャリーも例外ではなく、彼女はコネチカット州の出身である。
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“Non-Native New Yorker”としてのキャリー
SATCの4人は、場違いなほど華やかなファッションに身を包み、NYの街を闊歩する。これは、地方出身者特有の見栄や努力、そして自己表現の一環とも取れる。対して、『Gossip Girl』の登場人物たちは”Native Rich New Yorker”、つまりNY生まれの富裕層の子供たちだ。彼らにはSATCの4人のような力みや必死さがない。この違いは、彼女たちの行動やファッションにも表れている。
例えば、SATCのキャラクターたちはほとんどバスや電車を利用せず、タクシー移動が基本だ。一方、『Gossip Girl』のキャラクターたちは日常的にバスや電車に乗りながらも、パーティーではリムジンを利用する。この違いは、NYにおける生まれ育ちの違いを象徴しているのかもしれない。
キャリーのハングリー精神とNYへの適応
SATCの4人は、地方からNYへやってきたからこそ、都会の厳しさを知り、ハングリーで創造的に生きている。対照的に、『Gossip Girl』の登場人物たちは裕福な家庭に生まれ、生活に困ることがない。NYの活気を生み出しているのは、SATCの4人のように地方から流入し、必死で生き抜こうとする人々である。
キャリーは、そんな”Non-Native New Yorker”の一人だ。ドラマでは描かれていないが、彼女は相当な努力を重ね、NYでコラムニストとしての地位を築いている。その姿は、まるでNYというリングで戦うボクサーのようでもある。
キャリーの知性と社会的視点
キャリーは、恋愛至上主義の女性ではない。彼女は大学で学び、芸術や政治、社会の矛盾に対する洞察力を持つ。原作者のキャンディス・ブシュネルによると、キャリーは1980年代にブラウン大学に通い、NYのThe New Schoolで夏季授業を受けていたという。
SATCの登場人物が政治に無関心だと誤解されることがあるが、それはドラマのスタンスによるものであり、キャラクター自身が政治を考えないわけではない。例えば、9.11同時多発テロについてSATCではほとんど触れられていないが、それは単にこのドラマのテーマが「恋愛と女性の生き方」に特化しているからに過ぎない。
キャリーとロマンティックラブイデオロギー
キャリーは、ロマンティックラブイデオロギーを無自覚に信じている。彼女の恋愛観は、「自分が最も愛する異性に一番に愛されたい」「その相手と結婚し、セックスはその相手とだけ許される」という価値観に基づいている。この考えのもと、彼女はさまざまな恋愛を経験し、時には傷つきながらも、理想の愛を追い求め続けた。
遊びと割り切れる相手以外とのセックスに虚無感を抱くキャリー。その旅路は決して平坦ではなく、多くの痛みを伴った。しかし、その経験が彼女を逞しくし、知的な女性へと成長させたのだろう。
キャリーの成長とAJLTでの姿
SATCの第1話では、自分で生活し、考え、決断し、すべてを引き受けようとするキャリーが描かれていた。
シーズン4では、ミランダの妊娠をきっかけに、キャリーはかつて妊娠し中絶を選んだ過去を振り返る。そして、相手の男性に再会するが、彼は相変わらず成長が見られず、キャリーとの関係もまったく覚えていなかった。自分の身の中に宿した命の父親の不甲斐なさに直面するキャリー。しかし、彼女はそれすらも受け入れ、前に進むことを選ぶ。
SATCの6シーズンと1本の映画を経て、キャリーは長い旅を終えた──はずだった。しかし、その後もう1本の映画が制作され、さらに『And Just Like That…』が誕生した。
AJLTのキャリー|変わらない精神性
『AJLT』では、キャリーは第1話でビッグを突然失う。しかし、彼女の精神性はSATCの第1話と変わらない。
例えば、ビッグの葬儀の際、サマンサが送った贈り物がキャリーの希望と違うと知りつつも、それを受け入れるキャリー。その姿は、彼女の強さと茶目っ気、そして人の気持ちを推し量る能力を示している。
また、AJLTの最終回では、キャリーがパリのセーヌ川の橋の上からビッグの遺灰を撒く。この時の彼女のファッションは、地方からNYに出てきた”Non-Native New Yorker”がパリで頑張りすぎたような雰囲気を醸し出しており、まるでコメディのようだ。しかし、それこそがSATCとAJLTの持つ魅力であり、ドラマのロマンティックコメディとしての本質でもある。
キャリーは何者なのか?
キャリー・ブラッドショーとは、NYを魅力的にする流入者の一人であり、都会の戦士である。さながらNYというリングでバトルロイヤルを戦う戦士のようである。彼女は強く、繊細で、聡明な女性だ。
彼女の人生は、恋愛に振り回されながらも、それを受け入れ、自分のスタイルで生き抜く姿勢を示している。SATCの6シーズン、映画2本、そしてAJLTを通して、キャリーは変わらない精神性を持ちながらも、加齢とともに新たな人生を受け入れているのだ。
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