マーニ・ニクソン 最強のゴーストシンガー

読者のみなさんは、マーニ・ニクソンというアメリカ人歌手をご存知だろうか。

ミュージカル映画ファンなら一度は彼女の歌声を聴いた事があるに違いない。

それは『王様と私』でデボラ・カーを、『マイ・フェア・レディ』でオードリー・ヘプバーンの歌を吹替えているからだ。

だが、この偉大なシンガー、Marni Nixon の名はクレジットされる事がなかった。それは当時の映画産業のしきたりだったらしい。

人間の労働による業績は本来的には一身専属であるが、20世紀にはまだその意味があまり理解されていなかったのだ。

今でもゴーストライターが存在しているから、事情は本質的には変わっていないのかも。

そんな彼女の存在が周知となったのは、デボラ・カーが自身の歌の吹替えをマーニ・ニクソンが担当していたことをインタビューで公にしたから。

ミュージカル映画を好きな方なら一度はその名を聞いたことがあるであろう名作『West Side Story』の劇中、マリア役のナタリー・ウッドが歌う場面では、その吹替えをマーニ・ニクソンが担当していた。

既述したように、当時の映画製作では、こうした吹替え歌手やダンサーをクレジットしない習慣だった。

ところでナタリー・ウッドは自身の歌唱力に自信をもっていたため、製作者サイドは彼女の心情を慮って吹替え歌手の起用をナタリー本人には伝えていなかった。

吹替え歌手の起用を何かで知ったナタリーは機嫌を非常に損ねたらしく、吹替え前提の芝居や歌唱に全く非協力的な態度をとったといわれている。

そのため、ナタリーの歌い間違いや芝居の非連続性を補うために、スタッフが大変苦労したとの事。

しかし、ナタリー・ウッドの心情もよく理解できる。

自分以外の人は自分の歌を”それ程でもない”と評価していたのだ。

そして皆で口裏を合わせてナタリーには秘密裡にマーニの吹替えで作品つくっちゃえって思っていたのだ。

ナタリーは表現者としての自尊心を傷つけられたうえに、制作仲間としての信義を背かれたのだ。

これで不愉快にならない人がいたら仕事熱心ではないか、よほどネジが緩んでいるかだろう。

もしもナタリーの立場に自分がたったと仮定しよう。

『理屈コネ太郎』なら、実力が(歌唱力)が評価されていなかった事には耐えられる。

それは自分の能力が不足しているのだから仕方ない。プロとしてその評価は甘んじて受けよう。

しかし、吹替えの起用を秘匿されていたのは許容範囲を超えている。

君は仲間ではないよ、と言われているも同じだからだ。そんな連中と一緒に働けるかってハナシだ。

制作者側にも言い分はあるだろう。例えば、ナタリーに良い芝居をさせるには、ナタリーの気性を考えると吹替えの起用をナタリーに隠しておいた方が良かったのだ…とか。

蛇足だが、ナタリー・ウッドは1981年11月下旬、映画『ブレインストーム』の撮影中に水死しているのを発見された。まだ40代前半で女優としてまだまだ活躍できたと思う。

事件当初は事故死と思われたが、新たな証言や証拠の発見により2011年(事件発生から30年後!)に再捜査が開始され、前夫で俳優のロバート・ワグナーが重要参考人として事情聴取を求められているとの報道があった。

またまた蛇足だが、ロバート・ワグナーは、日本ではTVドラマ『探偵 ハート&ハート』の主人公を演じていた。

今回は以上。

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