予約なしにすぐに診てくれとゴネるのは無意味

本ページでは、予約制の医療機関で予約なしに急に診てくれとゴネても程んど目的が果たせない事を説明する。

受診希望者:「ちょっと目の調子が悪いんですけど、診てもらえませんか?」

眼科受付スタッフ:「予約はありますか?」

受診希望者:「予約はしていないんです、今朝 急に調子わるくなったものですから」

眼科受付スタッフ:「今予約いただければ一番早くて明日の午後の枠が空いてますけど」

受診希望者:「そんな時間ないです。いま悪いんですから。ちょっと先生に話してきてもらえませんか?」

眼科受付スタッフ:「では、ご自宅のそばの眼科のクリニックにご相談されてはいかがですか?」

受診希望者:「私はこの病院以外で目を診てもらった事がないんです」

眼科受付スタッフ「では、救急外来をまず受診して下さい。救急の医師が必要と判断した場合には、すこしお待ちいただきますが出来るだけ早く診察します」

受診希望者:「これまでもずっとこちらに受診しているんです。ちょっとでいいので診て貰えるように先生に話してください」

眼科受付スタッフ:「予約して診察を待っている患者さんが他に大勢いらっしゃるので、今日の当科での診察をご希望でしたらまずは救急外来を受診して今日の診察が必要かどうか診察してもらって下さい。それでなければ明日の午後の枠の予約を取っていただくか、です」

似た様な押し問答をこの眼科の待合室で何度も聞いている。いや、殆ど毎回と言ってもいいかもしれない。

眼科受付スタッフのいうように、待合室には常に20人以上の患者が自分の順番を待っている。全員、事前に予約している患者だ。

眼科受付スタッフはその人たちを飛び越えて「ちょっと診て貰える」ように計らう職権を与えられていない。だから、こうした受診希望者が「ちょっと診て貰える」事はない。

この眼科は完全予約制で、最初に診療を受けるには紹介状(正確には診療情報提供書という)と事前の予約が必要だ。

そしてその後の定期通院も予約制だ。また、予約を変更するのも、色々と病院が定めた手続きを踏まねばならない。

全て、病院との事前の約束通りに行動しないと、2度手間、3度手間の洗礼を食らってしまう。全く融通が利かない。

確かに面倒である。しかし、それがなんだというのだろう。事は視力の問題だ。

視力が一定以下になっては仕事もできないし、車の運転だってできない。私の生活の根幹が大きく揺らいでしまう。

だから私は自分の視力のために、生活のために、面倒だけど毎回予約をとって通院しているのだ。

実はこの病院は都内有数のブランド病院だが、私としては、特段この病院が好きで選んだわけでは全くない。

最初に眼の不調を自覚して受診した近所の眼科医院で、より専門的な検査・治療が必要と判断され、その専門的検査・治療が受けられて、かつ私の自宅に近い病院がたまたまそこだったので、紹介してもらっただけだ。

都内有数のブランド病院といえば高額なイメージだが、診療報酬体系に収載された医療であれば、つまり健康保険の範囲であれば、無名病院と比べて医療費が高いって事は全くない。

入院などしたら差額ベッド代(それは健康保険の範囲外なのだ)は高額だろうけれど、医療本体部分の金額は日本中の何処へ行っても同じ医療内容なら同じ金額だ。それが保険医療というものだ。

それから、有名ブランド病院だからといって、診療水準が特段に優れているわけでも全然ない。

今日の医療では多くの病気の診断・治療についてガイドラインが作成されていて、それらガイドラインはウェブなどで簡単に閲覧できるし、頼めば数日以内に冊子版を配達してくれる。医療者の間で知識格差はあまりないのだ。

地方のお金持ち患者は東京の有名ブランド病院が大好きだ。ブランド病院好きは交通費と時間と手間を余計にかけてでもブランド病院であれば地元の病院より高度で洗練された治療が受けられると勘違いしている。

あるいは、お金を余計に出せば、普通の人が受けている普通の医療よりも優れた医療を受けられると勘違いする人も少なくない。

しかし、前述したように、保険診療では、医療の内容が同じなら医療費も同じになる。だから、少なくとも本邦では、余計にお金を払えばその分よい医療が受けられるという考えは原理的に正しくない。

それから、今でも心付を医師に渡そうとする患者がいるが、これも全く無意味でお金の無駄だと思う。心付をくれた患者とそうでない患者の診療内容が変わる事は、絶対に…とまでは言い切れないが、まずない。

だって、心付をくれた患者さんには薬を大目に出すとか?、点滴を500ml増やするとか?、不要な手術を出血大サービスで実施するとか?、あり得ないでしょ?心付貰ったからって、どんな医療サービスをおまけで追加できるっていうのだろう。

日本の医療従事者、各科の医師や看護師や放射詮技師の知識・スキルは全国的に標準化されているので、各県・各地域に遍く標準化された知識・スキルを持つ人員が勤務しているのが現状。

医師偏在とか、あるいはちょっと前には無医村などという、都市部とそれ以外の医療格差は、もう現実問題として殆ど存在しないと思う。

日本国内なら、自動車で壱時間以内の距離で、ガイドラインに定められた通りの医療が受けられるほぼ間違いなく受けられるはずだ。厚生労働省はそんな感じに日本の医療を制度設計している。

そもそも、医科大学とか医学部とかいった医師養成機関が日本の全ての都道府県に設置されている。医学部のない県はないのだ。

各医学部では必ず毎年100人位の新人医師が輩出され、彼らに初期臨床研修を実施する大学病院が必ずあり、大学病院あるところ必ず県立病院やら市民病院といった公的な財政基盤を持った大型の重装備医療機関が存在するものなのだ。

「いや、そうは言っても優秀な医師は都会のブランド病院を目指すものなんじゃないの?」と思う向きも多いと思う。

Web以前の情報格差社会ではそういう傾向も確かにあったけれど、現在では本当に優秀な人はそもそも医師を目指さない事もあるし、医師になっても激務で給料が安くて責任ばかり大きい病院には就職したくないって公言して憚らない医師も多くなった。

ところで、一般的に病院という組織は常に不確実な緊急事態を想定し、それに対応する準備をしている。

医学的な緊急事態とは当たり前だが「検査・治療を先延ばししてはいけない」事態のことで、緊急度を低く見積もって対応を先延ばしにすることは医学的にアウトなだけでなく、場合によっては法的に責任を追及されることもある。

そういうわけだから、緊急事態が認知した次の瞬間には、事態改善に向けて何等かのアクションが採られる事となる。当該診療科のマンパワーとリソースが、緊急事態改善に向けて振り分けられる事になる。

驚くべき事だが、緊急事態かどうかの判断には、患者本人が緊急と思うかどうかは関係ないのだ。客観的に、医学的(これまでの先人達が築いてきた知識体系に基づいて)に鑑みて緊急事態であると判断されるかどうかが全てなのだ。そう、緊急事態かどうかを判断するのは、患者本人ではなく医師なのだ。

でも少し考えれば、これが至極当然な事であるとわかる。受診希望者自身の緊急度の判断と診察の希望を医療機関が全て受け入れていたら、心配性で声の大きな受診希望者ばかりが優先される医療現場になってしまう。そうしたら、我慢強く日々の仕事に邁進している人々はますます予約が取りにくくなり、医療から遠ざかってしまう。いいのか、そんな医療現場で?。そんな社会で?いいわけはない。

だから、冒頭のケースで、眼科受付スタッフは救急外来の受診をこの受診希望者に提案したのだ。

救急外来に勤務する救急医学の医師には高度に眼科的な緊急性の評価は困難かも知れない。しかし目の前の患者の緊急度の判定をするのは救急医の仕事である。

冒頭の受診希望者が提案通りに救急外来を受診したとしたら、まず対応する救急医は自分の知識の限りを動員して、今朝から急に見えにくくなったという現象を医学のフレームワークで捉えようとするだろう。

本当に眼の問題なのか、脳や眼と脳を連絡する神経などの眼以外の問題ではないのか。あるいは精神神経科的な問題なのか?救急医はそうしたところから思考をスタートするのだ。

救急医は問診したり、患者の自覚していない眼球や四肢の運動や発話の様子を観察するだろう。本当に見えにくいのか、煮えにくいと言っているだけなのかの判断も重要だ。

あるいは頭部CTやMRIを撮影して頭蓋内病変の有無を確認するかもしれない。患者が眼が見えにくいと言うとき、調べてみたら脳外科領域の病気だったなんてことは良くある事なのだ。

色々なプロセスを経て、やはり眼科的な現象であると結論づけたとする。次は緊急度を判断しようとするだろう。救急医自身が判断できなければ眼科医に電話で問い合わせをして、緊急度評価のアドバイスを依頼するかもしれない。そしてそれが相応だと救急医が考えたら、眼科医に「私達では判断しかねるので、大変ご足労ですが救急外来まで診にきてもらえませんか?」と依頼する事もある。

なぜ私がそんな事を知っているのかといえば、それは実際に私が某病院の救命救急センターで働いていたころ、こうした専門科とのやりとりは日常茶飯事だったからだ。

そして救急医のあの手この手の結果として「これは今すぐ眼科医の診察が必要だ」と判断すれば、その旨を眼科外来受付に連絡することになる。眼科医は待合室で自分の順番を待っている多くの予約患者を飛び越してこの受診希望者を診察する根拠になるのだ。

医学的な根拠になるだけではない。眼科の待合室で順番を待っている予約患者達だって、そのプロセスを知れば納得するだろう(実際は予約患者達がこうしたプロセスを知る事は殆どないけど)。

今回は以上。

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