医者はなぜいつもせっかち? 不機嫌?

胆嚢と胆管 MRCP
正常な胆嚢と胆管

医者がせっかちなのは次の2点において時間に追われているからである。

第1に受診者を危機に晒したくない。

第2に待合室にいる受診者全員を診療時間内に診療し終わらないといけない。

以下、色々とややこしい言葉が出て来るし、論理展開も『理屈コネ太郎』の文章能力の不足で難解な箇所も出現するだろう。

現状のベストを尽くすが、読者に負担をかける事を大変に申し訳なく思っている。

特に断りのない場合は太字のところはWikipediaの関連ページのリンクを貼っておく。興味のある方は参照して戴きたい。

また、サイト内の関連頁を開くときは、赤い太字で表記しておく。こちらも参照して戴ければ幸いだ。

さて第1の理由である、受診者を危険に晒したくないと、なぜせっかちになるのか…について説明したい。

まずは、稀ではあるが、診断・治療スタートが分単位で遅れると、受診者の様態が著しく悪化してその後の人生に決定的な影響を与える、そういう受診者がいる事を知って戴きたい。

具体的に『理屈コネ太郎』が経験した1例を挙げよう。

ある日(診療時間内)に「胃が痛い」と言って来院した受診者Aさんがいた。

「胃がとても痛いので、薬を貰おうとおもって仕事を途中で切り上げてきた」とのこと。

痛い所を指差して貰ったところ、Aさんの言う『胃』とは医学用語では『上腹部』あるいは『心窩部』と呼ばれる部位。

『心窩部』に痛みを発症する病気は数多い。胃潰瘍、急性虫垂炎(いわゆる盲腸)、胆嚢や膵臓、心臓や血管の病気でも受診者は「胃が痛い」と表現することがよくある。

それぞれの病気や重症度で治療方法は異なる。

まずは質的に異なる様々な病気で人は「胃が痛い」と感じるのだ…と理解して欲しい。

私が診察した別の受診者Bさんは、大動脈乖離(しかもStanfordAで!)で「胃が痛い」といって受診してきた人もいる。

Bさんは、胸でも背中でもなく、胃が痛いといって心窩部を指差したのだ。

だから受診者の認識として胃が痛いと表現するとき、診察した医師が受診者の表現を鵜呑みにするのは極めて危険なのである。

当該受診者にそうした事をこの説明した上で、血液検査、心電図、造影CTスキャン、腹部超音波、上部消化管内視鏡(いわゆる胃カメラ)の実施を勧めた。

しかしAさんは「これは胃の痛みなので胃薬だけもらえれば大丈夫です」という希望だった。

最近の医療はインフォーム・ドコンセントが常識なので、受診者が望まない検査・治療は一切行わない。

日本ではある事件(Wikipedia当該頁を開く)を境に、医学的合理性よりも受診者の自己決定権を尊重するようになった。

だから、受診者が「胃が痛いので胃薬を出して欲しい」と言う場合、医師がH2BPPIを処方することは、医学合理性には悖るが、個人の決定権を最上位に置く社会通念的には及第なのだ。

医師の職務は診断と治療なので(当サイト内当該頁を開く)まだインフォーム・ドコンセントの概念がなかった昔の医療では、このレベルの診療は医学的にも社会通念的にも落第だった。

なぜなら、患者の要望に沿う治療をしているが、その治療法選択の根拠となる診断を全くしていないから。

インフォーム・ドコンセントや前出のの事件以前の日本医療では、悪く言えばなかば問答無用で検査と治療を実施していた。

つまり、医学合理性>個人の決定権…という時代だった。

個人の決定権より医学合理性が上位に置かれてていたため、医師は内心ビクビクなのに権威的に振る舞うしかなかった。

しかし時代は移ろい、医学的合理性<個人の決定権が今のトレンドであり、今後もそうあり続けるだろう。

だから、『理屈コネ太郎』はAさんに対して「これだけ強い心窩部痛で受診したあなたに、何の評価もせずに胃薬だけ処方するのは根拠のない行為ですがそれでもいいですか」と難度も尋ねた。

Aさんの回答は「大丈夫です、間違いなく胃なので胃薬もらえれば、それでいいです、自分の身体なのでわかるんです」で揺らがない。

『理屈コネ太郎』としては、その旨をカルテに記載して胃薬を処方するさかない。そしてAさんは帰っていった。

その日の21時ごろ、このAさんの奥様より電話があり、「胃痛が治まらないので診てほしい」とのこと。こうして22時頃に再度受診となった。

来院後、今度は検査への同意をAさんと奥様より得たので、夜勤時間帯の乏しいマンパワーのなか、胃カメラを除く全検査を施行したところ、胆石胆嚢炎、総胆管結石疑いと判明した。血液では炎症反応が高かった。

すぐに入院して禁食で抗生剤点滴を開始。翌朝一番にGBDの実施となった。その後、MRI、内視鏡検査、手術を経て、約10日後に元気に退院した。

幸運なケースではある。

Aさんには、最初の昼間の診察の際に20分近い説明時間を割いたが、結局検査は実施されなかった。

結果を知っている今となっては無駄な説明時間だった。そしてその無駄な時間は、そのとき待合室で待っていた人達全員の時間でもある。

待合室で待っている人達のなかに、この受診者と同じくらい、あるいはそれ以上に重症化一歩手前の人がいないと誰が言えるだろうか(実際にCさんとDさんという、分単位で判断が必要だった受診者がいた)。

そのうえでAさんの夜間の再度の診療だ。

どの病院も夜勤時間帯はマンパワーが薄い。

更に夜勤帯のナースには入院患者に関する多忙な業務があるし、医師も当直であり夜勤ではない。

その夜勤帯で、Aさんに2時間近い時間を割いて上記のように日中の診療時間内とほぼ同等レベルの検査を実施したのだ。

もし仮にAさんの心窩部痛の原因が心臓や大動脈などの血管などに起因するのであれば、他の専門医療機関への転送が必要だ。

しかし、他の病院への夜間の緊急の搬送は、そうするに足る明確な理由がなければどの専門医療機関も受け入れてくれない。

何故なら、その専門医療機関も22時はマンパワーが薄いからだ。

その薄いマンパワーの専門医療機関に、今まで私が診察していた受診者を緊急で引き取って診療してもらうには、そうする事がベストである根拠を私が示さなくてはならない。

だからどうしても、2度目の受診の際に、この受診者の心窩部痛の原因と緊急度を出来るだけ見極める必要があった。

即ち、昼間の診察時のこのAさんの希望のために、本来は入院患者のための夜勤帯のマンパワーをこの受診者に投入したのだ。

もしこのとき入院患者に急変があったらと想像すると、うすら寒い恐怖で胸がイッパイになる(幸い、この夜は病棟は平穏だった)。

読者の皆様には、ご自分が待合室で痛みを堪えて診察を待つ身であったり、治療のために入院中の身である場合を想像してほしい。

Aさんの行動が、他の受診者の時間と機会を奪っているのだな…と、ご理解いただけるだろうか。

勿論、Aさんの気持ちも理解できなくはない。いやむしろ、医療現場を知らない一般の人としては極々典型的な思考様式と行動なだろう。

だが、2度目の診察の際に検査に同意したのは救いだ。

なかには、「昼間の薬はダメだった、もっとズバッと効く薬をだしてくれ」などと言う人もいる。

Aさんのような人が殆どなのだ。

医療者側はそういう人が殆どである事実を既に受容している。受容しているが、具体的な対策は色々な理由から立案されていない。

だから、医師はどうしたってせっかちにならざるを得ないのだ。特に混んでる医療機関では尚更だ(当サイト内当該頁を開く)

それから一般の人には分かりにくいが、医師以外の医療専門職は、患者に受容的であるように養成課程で教えられている。

特に看護師は、その姿勢を叩きこまれている。(当サイト内『看護師に嫌われる患者は損をする』の頁を開く)

そういうわけだから、医療機関で受診者に対してアレコレと受診者の意に沿わない事を言えるのは医師だけという事になる。

だから診察室では、医師は診察に役立つ情報だけに飢えている。

特に初めて診察する受診者の症状や病歴に関する情報には猛烈に飢えている。

だから、診察に不要だけど受診者が話したい事を聞く時間はない。

医者が尋ねた質問に端的に答えて欲しい。

この点は雑談に代表される通常の会話とは全く世界が異なる。

医師は受診者からは診療に役立つ情報だけを聞き出したいのだ。

1秒でも早く必要な検査を実施して、1分でも早く診断して治療方針を決定したい。

一般の人にはあまり馴染みがない状況だが、分単位の判断の遅れが受診者の命を救える or 救えないの分かれ目になることが、1日に何回か医師にはあるのだ。

受診者の余計な話はノイズになるだけでなく、診断を誤った方向に導くこともあるのだ。

第1の理由についてはこのへんまでにして、第2の理由に進みたい。

待合室にいる受診者をスタッフの勤務時間内に診療し終えなくてはならないことも、医者をせっかちにする要素だ。

医師を含めて、ナースや検査技師にも個人の生活がある。

子供を迎えに行ったり、晩ご飯を作らなくてはならないお母さんだっているだろう。

そうした諸々を考慮すると、医者はせっかちになるし、診療がスムーズに進まないと、不機嫌になりがちなのだ。

少しはご理解いただけただろうか。

蛇足だが、当頁のMRCP画像は『理屈コネ太郎』自身のもので、Aさんのの胆嚢炎・総胆管結石の画像ではない。

今回は以上。

今回は以上。

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