小山ゆう著『雄飛』 全16巻

傑作漫画、小山ゆう著『雄飛』全16巻を『理屈コネ太郎』がご紹介。

時は終戦直後、大陸からの引き上げ中に眼前で母と姉を殺され戦争孤児となった少年、雄飛の物語である。

生きるのことすら厳しい時代に、雄飛を拾い育ててくれた姉のような女性との出会い。

雄飛にボクシングの基礎を教えて実直な生き方を背中で見せる兄のような男性との出会い。

そして、雄飛を見出して養子として引き受ける、特攻隊で2人の息子を失った任侠の親分。

敬愛する親分の息子として、雄飛を時は兄達のように接する子分たち。

雄飛は、戦争孤児の宿命を背負いながら、周囲の人々に支えられて、学業にボクシングに励みながら成長していく。

そんなある日、雄飛は、母と姉を殺して自分を戦災孤児にした男を偶然見つける。

その男の顔には、母と姉を殺された直後に雄飛が鎌で切り付けた際にできた特徴的な傷があったのだ。

その男はボクシングジム経営者として、キャバレー経営や芸能興行師として、そして暴力の世界で地域の顔役になっていた。

以降、雄飛は自分を育ててくれた人々の情愛への感謝と、その男への復讐心の両極端の感情の中で揺れ動くように生きる。

そんなある日、雄飛の養父の組織と、仇の男の組織との利益衝突により養父の組の1人が惨殺される。

そして次には養父が3度の執拗な襲撃に晒され、とうとう3度目の襲撃で殺されてしまう。

怒りに震える子分達は敵討ちに出発しようとするが、そんな子分たちにまだ少年の雄飛が諭す。

今、復讐の行動に出ることは相手が予想するこちら側の行動であり罠である。

仇討ちに敵のアジトに乗り込めば準備を整えた敵に返り討ちにあう。

そうすれば、せっかく努力して広げたシマを敵に奪われることになり、死んだ親分が余計に悲しむことになると説得して、子分達の仇討ちを止める。

雄飛は仇の男を社会的に葬るため、まずは自分が力を持つことだと確信する。

そしてこの頃から、雄飛は亡き養父に替わり、次第に組の意思決定に大きく関わっていく。

雄飛の組織は親分不在のまま、次第に雄飛を中心とした合議制で、芸能興行、港湾労働の世界で実績を積み上げていく。

仇の男は雄飛の組織に刺客を送り込んだりと次々と汚い攻撃を仕掛け続ける。

雄飛は時に危険回避に成功し、時に失敗して仲間を失い傷つきながら、仇の男に煮え湯を飲ませ続ける。

ついには仇の男を塀の向こうに送る事に成功する。

そして最後、目的を達成した雄飛が大きく成長して、を仇の男が自分と雄飛との器の違いを思い知る場面が圧巻だ。

本作の主人公雄飛は、行動原理が少年時代にすでに完成していて、作中にブレる事がない。その点は、韓流ドラマ『梨泰院クラス』(当サイト内関連頁を開く)や漫画『神々の山嶺』(当サイト内当関連を開く)の主人公達と同様だ。

『梨泰院クラス』と同様に、この漫画では敵が詰んだ時点で、主人公は復讐というモードから卒業して、目的意識が次のステージに進んでいる。

そこがまた敵に屈辱感を与えていて痛快であり、そしてそれこそが真の復讐なのだと読者に思わせる。

名作、”がんばれ元気”の成人版とも捉えられそうな構成の作品であるが、違いは敵役の人間性と、敵役が本当の敗北を感じた際の衝撃的な絶望感の描写だろう。

がんばれ元気では、宿敵である関拳児は主人公元気が青春をかけて目指し乗り越える相手であった。元気の心中には、父の死の恩讐を超えて関拳児に向けられた尊敬の念があった。

本作では、敵役に向けられた主人公の感情は、軽蔑と嫌悪である。仇の男を社会的に葬ることは、実は雄飛にとって人生のほんの小さな出来事…くらいの事なのだ。

同一作者の複数の作品を味わうと、なかなか考えさせてくれて楽しいものである。

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