ドライビング好きにとって、最高の気持ち良さとは何だろうか。私にとってそれは、クルマを自由自在に操る実感に他ならない。私は前期型6S-MTのGRヤリス(以下、壱号機)と後期型8S-DATのGRヤリス(以下、弐号機)の2台を所有している。この2台のどちらが、ドライビング好きの私により大きな気持ち良さを与えてくれるのだろう。
壱号機は2020年式で、6速マニュアルトランスミッション(MT)を搭載したモデルだ。MT車の特性は、ドライバー自身がクラッチを切る事も含めてシフトチェンジを行うことにある。これにより、操作のタイミングや精度がクルマの挙動に直結し、ドライバーのテクニックが問われる。
一方、弐号機は最新の8S-DATと呼ばれるオートマチックトランスミッション(AT)を採用している。このATは、電子制御による人間より素早いシフトチェンジ、ごく短い駆動力抜け時間、状況に合致したギアを高い精度で選択してくれること、そして高い締結度が特徴である。
要は、普通レベルの人間より遥かに素早く高い精度でギアチェンジを行い、かつATのMTに対する弱点のひとつである締結度の低さも克服したという凄いATということになる。
この2台は、変速機以外は基本的に同じクルマである。GRヤリスは世界のラリー競技に参戦することを前提に市販された車両で、どちらも同クラスでは世界最速のマシンだ。
しかし、変速機の違いがもたらす運転体験の差は想像以上に大きい。壱号機と弐号機を比較することは、まさに「己の技術か、マシンの出来か?」というテーマを探る事そのものだ。
壱号機の魅力:全てをコントロールする歓び
壱号機をドライブするたびに感じるのは、自らの腕がクルマの動きを支配しているという実感だ。MTは、クラッチを切る、ギアチェンジする、クラッチを繋ぐという行為を、全てがドライバーに委ねられている。MTには電子制御が介入しないため、シフトチェンジの目的や状況によって、ヒールアンドトーや、ダブルクラッチなどの割と複雑な操作をドライバーが行う事で色々な問題を克服してきた。
しかし、これには当然、技術と集中力が求められる。間違ったシフト操作をすればエンジンのパワーバンドを外してしまい、思ったような加速が得られない。さらには、クラッチ操作が荒ければ車内がガクガクと揺れる。これらの失敗を克服し、狙った通りの荷重移動とライン取りによるスムーズな走行を実現できたときの達成感は、言葉では言い表せないほどだ。
壱号機はドライバーにマルチタスク的な思考と操作を強いる。コーナーをひとつクリアするたびに、ドライバーとしてのスキルが磨かれていくのを感じる。この点で、壱号機はただの道具ではなく、ドライバーに成長を促すトレーニング機器のような存在と言える。
弐号機の魅力:荷重移動とライン取りに集中できる喜び
一方で、弐号機の8S-DATは全く異なる体験を提供してくれる。最新の電子制御技術により、シフトチェンジはDレンジでも精確でスムーズで素早い。高速道路の合流や峠道の登坂でも、エンジンのパワーを最大限に引き出す最適なギアが瞬時に選ばれる。ドライバーは変速操作から解放され、荷重移動とタイヤのグリップを探りながらコーナリングやブレーキングなど、クルマ全体の挙動に注意を集中できる。
弐号機を運転すると、変速にまつわる諸々をDレンジなら一切合切を、Mレンジならギアの選択以外をクルマに委ねられる。
だから、ドライバーは荷重移動とライン取りだけにMTでは不可能なレベルで意識を集中する事が出来る。その結果、かなりの手練れ以外は、8S-DATの方がワインディングをより素早く駆け抜ける事ができると思う。
弐号機の魅力は、8S-DATがガソリンエンジンの欠点を上手にカバーしてくれて、ドライバーを荷重移動コントロールとライン取りにおいて一段高いレベルに連れていってくれる事だと思う。
壱号機と弐号機の違い:別世界の2台
壱号機と弐号機を比較すると、同じGRヤリスというクルマではあるが、まるで別の種類のクルマとの印象を受ける。壱号機はドライバー自身の総合的でマルチタスク的なウデが試される車であり、その過程そのものが楽しさを生む。一方、弐号機は荷重移動コントロールとライン取において高いレベルの意識集中を許容してくれる。
この違いは、「己の技術か、マシンの出来か?」という問いに直結する。どちらが優れているかというよりも、どちらがより理屈コネ太郎を愉しませてくれるのかが重要である。
2台所有の僥倖
壱号機と弐号機を同時に所有できることは、私にとって何よりの僥倖である。今後の私の人生にこんな幸福はおそらく起こらないだろうってくらいだ。
同じ道路、同じ景色であっても、2台のGRヤリスは全く異なる体験を与えてくれる。。
壱号機と弐号機を同時に運用して、「MTと8S-DAT、どちらが優れているのだろうか?」との問いの意味は、理屈コネ太郎的には完全に消失した。ふたつは、スポーツカーとして全く違う種類の乗り物だ。
だから、どちらが自分にとって好物か?が正しい問題設定だろう。
この問題設定で、しばらく二台を運用していこうと思う。
今回は以上ん。
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