幸村誠著『プラネテス』|未来の宇宙を舞台にした哲学的思考実験

本作は哲学書であるな……とは、『理屈コネ太郎』が読了後にまず思ったことである。

物語の舞台は未来の宇宙。人類の宇宙進出は順調に進むが、それは同時に地球の周回軌道上を秒速8キロメートルの超高速で移動する大量の宇宙ゴミ(スペースデブリ)を生み出す原因ともなった(スペースデブリについては[Wikipedia当該頁を開く])。デブリとは、人間が生み出した宇宙空間を漂うゴミである。これらが人工衛星や宇宙船に衝突すると大事故につながりかねない。

主人公は、この宇宙空間のゴミを回収する「デブリ回収業」に従事している。秒速8キロメートルという超高速で地球の周回軌道上を漂うデブリを回収する作業は、常に命の危険を伴う危険な任務である。

主人公は社会性があり楽天的で、いわゆるOutgoingな性格であるが、一方で内省的かつ内向的な一面も併せ持つ。彼の視界は一方では広大で漆黒の宇宙が占め、もう一方では美しい地球に満たされている。この二つの対照的な視界が、彼の心象風景そのものを表しているかのようである。

本作は、宇宙という極限の環境に生きる人間が直面する、生きる意味への問いと答えの往還を描く、一種の思考実験である。主人公は、物語の進行に応じて精神的な成長を遂げていく。その過程が、作者の卓越した筆致によって、表情や心象風景、そして「間」の描写を通じて巧みに表現されている。

わずか4巻の短編漫画でありながら、描き込まれた独特の世界観と主人公の心理描写が見事である。

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