柔道一直線の主人公一条直也が、桜ヶ丘高校で出会う二歳年長のライバルであり、兄貴分の天才柔道高校生、それが近藤正臣演じる結城信吾。
彼の歩む柔の道は、ただただ己の技を磨くことのみに邁進する孤高の道。故に、卒業までの部活動の柔道部には基本的に関心がない。彼にとって高校柔道部はお遊びなのである。
結城信吾は、柔道部には全く興味がないので、時間があればピアノをよく弾いている。
入学してきた一条直也が、対抗戦の戦力として柔道スワンと異名をとる結城信吾の超高校級実力を聞きつけ、結城に柔道部に戻るように直談判に行くが、その際に信吾は直也を軽くあしらい、鍵盤に飛び乗って足先でピアノを弾く足腰の強さを見せつける。
結城信吾は、自分と同じ柔道に対する真剣味を直也に感じて柔道部に戻り、直也とともに高校生レベルを遥かに超えた柔の道の高みを目指そうとするが、どうにもこうにも直也はお人よしでお調子者で、やや軽薄で甘えん坊で、柔道に対する、あるいは生き方に対してハングリーさが少し欠けているので手ごたえがない。
結城信吾が歩もうと思っている柔の道は、車周作のそれと良く似ている。
よく似ているが、おそらく結城信吾は車周作と師弟関係を結んではいないはず。すくなくともドラマ中に明示的に師弟になった描写は出てこない。
だが、結城信吾は感じていたと思う。車周作の柔の道こそが、自分が進む道なのだということを。
結城信吾のエッジが立っているところは、車周作にすら野試合を挑み、その技を見事であると称賛されていること。
車周作も結城信吾に同じ精神性を感じたのかもしれない。
結城信吾は本当の意味で風祭右京の車周作直伝の地獄車を最初に破った男であるし、無敵の強さを誇る城山大作の大噴火投げに対しても差し違えの引き分け、即ち敗北しなかった唯一の男でもある。
それも、全て自分の創意工夫と努力だけで。
だいたいどんな技も一度でも見れば、分析し弱点を見出し、二度目には殆どの場合に破っている。直也の真空投げを初見では食らってしまったが、その後は易々と破っている。
高校生柔道家としては、登場キャラクター中随一である事は間違いない。
そして、柔道部なのに長髪に端正な顔立ちで、すこし気障な身のこなしもする。柔道は天才的と言われ、またピアノの腕前のなかなかであり、私服のセンスもお洒落な感じ。
学生服に鉄下駄の一条直也にすらミキッペというガールフレンドと、私は強い男性が好きとか発言するエモい女子高生ファンがいるのに、ドラマの中で結城信吾には女性の影は一切ない。
赤月旭にはキャーキャー言う女子たちが居たのに…。
女子たちからキャーキャー言われそうな要素たっぷりの結城信吾なのに、そういう描写はほぼない。
なぜか。
そろらく、結城信吾は勉強が苦手で成績は学年下位の常連なのだろう。柔道部を引退したってのに、進学したとか、就職するとかのハナシも一切ない。
他に差し迫った事情がないのだろう、たまに柔道部に顔を出して新黒帯ファイブのだらしなさを指摘したり、直也の優柔不断さや綺麗ごと好き対して毒を吐いたりしている。
しかも彼は名誉や有名になるために試合に出たりはしないので、スポーツ特待生とかのスカウトの目にも止まらず、有望株として校内では認識されていなかったのかも知れない。
加えて、笑顔や怒り顔や魅力的なのに、上手にスムースなコミュニケーションする能力が殆どない事が欠点だ。
カッコいいし柔道も強いしピアノもうまいけど、学業はイマイチだし将来性もなさそうだし、気障でめんどくせーヤツって感じで女子たちから相手にされていなかったのかも知れない。
最終回で、直也に宛てた車周作の置手紙を見て、自分こそが車先生のおっしゃるような柔の道を進みます…と涙ながらに言う場面があるが、高校生男子としてはなかなかヤベー奴かも知れない。
実際、結城信吾の真意を汲み取れず、自分は虐められただけだと思い込んでいた直也にその直後に投げ飛ばされているし。
あ、そうそう、直也あての置手紙はあるけれど、風祭右京への置手紙もなく、また結城信吾への置手紙もなかった。この点からも、結城と車は明示的な師弟関係を結んでいなかったと推察される。
今後、結城信吾がどのような形で車周作がいうような柔の道を歩むのかは不明だが、信吾の求めるものが名誉や栄光でなく、ただひたすらに柔の道の研鑽であるのなら、せめて日々の生活に困らないような職についてもらいたい…と老婆心ながら思う。
あの面立ちで、自給自足の掘っ立て小屋生活は、ちょっと悲しい。いつまでも、気障で長髪でお洒落で、そして柔道がめっぽう強い結城信吾であって欲しい。
柔道一直線。
今みても、ほぼ還暦の理屈コネ太郎に訴えかける内容のあるドラマである。
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