一条直也の母親、一条トメは、柔道家の夫なきあと、鮮魚店を営んで女手一つで直也を育てている。
トメが父親の分の愛情を注いでそだてたせいか、直也は素直に優しく、甘ったれな中学生に育った。町道場での活躍から日ノ出町の子天狗と異名をとるほどに柔道も頑張っている。
これまで亡父の背中をおうように柔道の道にひた走ってきた直也であった。直也は亡父の背中を追う事とは別に、やはり父親譲りなのか、生来の闘争心を持った少年だった。
ある日、直也は偶然みかけた車周作の技に衝撃を受ける。自分がこれまで町道場でやっている柔道とはちがう、本当に技を使って人を制圧する現場を目撃したのだ。
直也は、この人のようになりたい、この人に教えてもらいたい…と車周作に対して思う。
押しかけ弟子となった直也は、隠遁生活を送る車周作が住む小屋の周りの土の上で車周作に稽古をつけてもらうようになった。
直也の柔道に対する姿勢、亡父への思慕を知るトメは、時に愛息直也を理不尽とも思える方法で痛めつける車に疑念や嫌悪の念を持つ。
とはいえ、トメの目からみても、直也の柔道は進歩しているようであった。多くの大会でライバル達と出会い、研鑽し、日ノ出町の子天狗から、青葉中学の一条直也として知られるようになる。確実に活躍の場が大きくなっている。
町道場や中学柔道部顧問の嵐先生の指導だけでは、こうはなっていなかったに違いない。やはり、車周作との稽古が直也を強くしているのだろう。
トメは次第に直也の柔道の師として、車周作を認めるようになる。
直也は素直で優しい少年だから、丸井円太郎という友人や、高原ミキ子というガールフレンドもいる。勉強はできないけれど、情熱を向けて柔道に邁進する申し分のない息子である。
とはいえ、時にトメは車周作の直也への指導方法を訝しく思うこともある。車が直也を、1人の男として、困難に立ち向かい自分の力だけで克服する、あるいは敗北してもまた立ち上がれる、いつか車周作自身をも超える男になる事を目標に直也を指導している事にピンとこない。
トメにとって直也は可愛くて甘えんぼな息子であり、自分の全ての時間を直也の未来のために捧げても構わないと思っている。
車周作の直也への姿勢が、トメの直也への姿勢と違うのは当たり前であった。
直也は、トメに遠慮なく甘えてくるくせに、男の意地や母を人一倍愛するゆえにトメに心配をかけまいと全てを語らない、妙なスジの一本通った男である。
トメの知らないところで、直也が傷つき、苦しみ、のたうちまわっても、時に野試合で決闘し、時に病院に入院する程の怪我を負っても、晩になれば必ず家に帰ってきてご飯を大盛で食べるのが愛する息子、直也なのである。
直也を高校に行かせるために、トメは一生けん命に働く。直也は自分が柔道ばかりしている事がいかに恵まれているかを知りつつも、時々トメを助けるだけで、柔道にばかりエネルギーを注いでいる。
高校に進学し、直也のライバル達は全国に広まった。もはや、日ノ出町の小天狗の頃とは段違いのレベルである。
多くの大会に出場し、よき先輩たちと出会い、研鑽し、国体の東京代表選手になり、講道館二段に挑戦できるまでになり、そして高校柔道日本一を目指すまでになった。
柔道発祥の地である日本で一位であるということは、すなわち世界中の高校生柔道家となんら遜色ない問う事であり、すなわち世界水準の柔道家というとになる。
もはや、直也を生んで育てたトメですら、理解できない世界である。亡き夫が生前に戦っていた世界に近づきつつある事はトメにもわかる。
そして直也がそのレベルにまで到達する事が出来たのは、車周作のともすれば厳しく見えるだけの指導のなかに、自分の眼前に立ちはだかる困難に立ち向かうのは自分1人であり、敗北から立ち上がるのもまた自分1人であるという指導方法があったからだとトメはきっと思っていた。
直也に、いつまでも亡父の背中を追いかける事を自分の糧にするのではなく。家族もない、友もない、あるのは戦う己1人という柔らの道を、車周作が直也に教えたからだ。
だがトメはしらない。車は自分の柔道が邪道で荒野の技であり、自分1人の修行として柔の道に直也が進む事をあるときまで望んでいた事を。しかし直也は車周作とは異なり、その人柄、人間性から仲間たちの笑いあい、研鑽しあいながら柔の道を進むタイプの男であった。
車周作の柔の道がただ修行こそを目的とする柔の道であるとしたら、直也の柔の道は日の当たる檜舞台で日の丸を背負って戦う、職業柔道家(柔道一直線が放送された時代にはこの言葉や概念はなかったかもしれない)の柔の道であった。
直也が柔道日本一になった瞬間の車周作を歓びと納得の表情をトメは知らない。もしかしたら直也も見逃したかも知れない。
そして直也がパリの世界大会に向けて機上の人となるべくタラップを上る際に見た、車周作の穏やかな表情。直也ですら幻かもと思う程だから、トメが車のこの表情をみる由はない。
トメは、直也を生み、講道館柔道家であった夫を亡くし、鮮魚店を営みながら直也に柔道三枚の学生生活を遅らせる。その直也を、日ノ出町の小天狗からパリ世界大会日本代表にまで育てはのは、間違いなく車周作であったと、トメは理解している。
車周作と息子直也との間にある関係性について、詳細についてトメは知らないだろうが、しかし直也が泣き、挫けそうになり、ダメになりそうになったとき、そこから這い上がる道標らしき何かを示したのは車周作であると、きっとトメは理解している。
まだ高校一年生の直也が柔道高校生日本一になりパリの大会に出場した。直也の高校生活はあと二年もある。やがて、世界大会やオリンピック候補にもなるだろう。
そうした、まだ長いこれから先の直也の人生に、柔の道を一直線に進めと置手紙で指針を残して車は去った。
これからも、車は自分の柔の道を一直線に進むだろう。直也は、車周作のそれとはちがう道筋ではあるが、直也の柔の道を一直線に進むだろう。
今後の直也の人生を思うとき、きっとトメが「こんな時に車先生がいてくれたらねえ」とつい言ってしまうような、そんな状況や場面に直也は立つだろう。
柔道一直線。今みても、ほぼ還暦の理屈コネ太郎を真剣に考えさせてくれるドラマである。柔道一直線に関連する記事を下に書き出しました。ご興味あれば是非。
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