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医者を目指す子どもを応援する前に、親として考えておきたいこと
「うちの子には、安定した仕事に就いてほしい」
「医者になれば、経済的にも安心だし、立派な職業だ」
そう考えて、医学部受験を応援している親御さんも多いと思います。親心としては当然の願いです。
ですが、私は元医師として、一つだけお伝えしておきたいことがあります。
医師という職業は、必ずしも“幸せな人生”を約束してくれるものではありません。
この記事では、親として知っておくべき**「2つの現実」**についてお話しします。これは、医学部や医師という道を否定するものではありません。しかし、我が子の未来を心から願うならば、リスクと現実にも目を向けておく必要があるのです。
現実1|医師という職業が、幸福や満足をもたらさないことがある
◾ 医学部で過ごす6年間は“青春”とは遠い時間
医学部は、学ぶ内容のほとんどが暗記中心です。
法則や原理を理解して応用するより、膨大な量の知識を詰め込む作業が続きます。しかも内容は重く、範囲は果てしなく広い。
そのため、18歳から24歳という人生でもっとも多感で自由な時期が、ほぼ勉強漬けになってしまいます。
一般の大学生のように、旅をしたり、バイトやサークルで仲間と経験を積んだり、そうした“人間的な広がり”が犠牲になりがちです。
中には、医学の勉強にどうしても適応できず、留年や退学を余儀なくされる学生もいます。その場合、本人に大きな挫折感が残ることも少なくありません。
◾ 研修医時代は心身ともにギリギリの生活
国家試験に合格すれば、晴れて医師になれます。
しかしその先に待っている初期研修の2年間は、睡眠時間も食事時間も削られ、文字通り命を削るような日々です。
一方で、命に関わる判断を毎日求められ、常に“ミスをしてはいけない”という緊張感が続きます。
本来ならば社会人として羽ばたくはずの時期に、「これが本当に自分のやりたかった仕事なのか?」と自問しながら消耗していく若者も少なくありません。
◾ 医師の現場には、理不尽も多い
勤務医として働き始めても、安心とは限りません。
高圧的、理不尽な態度をとる患者さん
SNSでの誹謗中傷や医療訴訟のリスク
長時間勤務、夜間当直、休暇の取りにくさ
こうした現場のストレスが積み重なり、「自分の人生がこのままでいいのか」と悩み続ける医師も多いのが現実です。
現実2|「医師=経済的安定」は、もはや過去のイメージ
◾ 勤務医の年収は“中の上”、それ以上でもそれ以下でもない
一般には「医者は儲かる」というイメージがあります。
しかし実際のところ、勤務医の年収は1,000万円前後が多く、労働時間や責任の重さを考えると、必ずしも割の良い仕事とは言えません。
しかも最近では、労働時間の規制や病院経営の厳しさから、残業代や手当が削られるケースも増えています。
◾ 開業医はハイリスク・ハイリターン
「それなら開業医になればいい」と思われるかもしれません。
確かに、高収入を得ている開業医も存在します。
ですが、クリニックの開業には多額の初期投資と、経営能力が必要です。医師というより経営者としての手腕が求められる世界です。
設備投資や人件費、広告、集患の努力……。
それらを差し引いたあとに残るのが、やっとの“収入”です。
開業してもうまくいかず、借金を抱えるケースも珍しくありません。
◾ 医師からの転職は非常に難しい
万が一、医師を辞めたいと思っても、他業種への転職は極めて困難です。
医学の知識は非常に専門的でありながら、一般企業での評価や再現性が低いため、年齢が上がるにつれ転職の選択肢は狭まっていきます。
つまり、いったん医師という道に乗ってしまうと、簡単には引き返せない“片道切符”のような側面があるのです。
親としてできること|我が子を「職業」ではなく「人生」で見る
医師は、素晴らしい職業です。
命を救い、人のために尽くす、誇りある仕事です。
けれども、すべての子どもが医師として幸せになれるわけではありません。
「医師に向いていない人」も、「別の道の方が才能を活かせる人」も確実に存在します。
◾「医師になれれば幸せ」という前提を疑ってみる
親としては、できるだけ“正解”に導いてあげたいと願うものです。
でも、「安定」「高収入」「社会的地位」だけで将来の職業を選んでしまうと、本人が幸福を感じられないまま、一生を終えることにもなりかねません。
◾ 子どもの性格や適性を、親だからこそ見てあげる
医学部に入れる学力があるからといって、医師という仕事が本人に合うとは限りません。
人の気持ちに深く共感しすぎてしまう子
人の死を冷静に受け止めるのが苦手な子
プレッシャーや長時間労働に弱い子
もし思い当たる節があるなら、一度立ち止まって考えてみることも大切です。
まとめ|親が進路を“応援する”とは、選択肢を与えること
我が子の将来を考えるとき、
「こうあってほしい」という親の願いは、時に子どもにとって重荷になることもあります。
医学部受験は、人生の中でも大きな分岐点です。
だからこそ、親としては“医学部に受からせること”がゴールではなく、「幸せに生きていけるか」を見据えた判断と対話が必要です。
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