初老の現役医師である私、理屈コネ太郎の視点から、医学部受験に伴う2つのリスクについて親御さんむけに説明したい。
そのリスクとは次の2つである。
- 医師という職業がご子弟に幸福や満足感をもたらさないリスク
- 医師という職業が経済的に不安定になるリスク
この記事では、これらのリスクに焦点を当てる。医師という職業のメリットや喜びについてはほとんど触れないが、リスクに関する私の考えを最後までお読みいただければ納得いただけるだろう。
なお、ここに述べる内容はあくまで私個人の経験と視点に基づくものであることをご了承いただきたい。
Contents
医学部受験が抱える第1のリスク:幸福や満足感を得られない可能性
親御さんの中には、ご子弟の将来を考えたときに医学部受験を推奨したい方も多いだろう。医師は安定した収入が得られ、社会的地位も低くはない。生活設計もしやすい職業と考えられている。ご師弟を医師にしたとしたら、父兄としては鼻高々だろう。しかし、本当にご師弟の人生はそれで幸せだろうか?
現代の医師を取り巻く環境には、人口減少、医師不足による過剰労働の問題、公的健康保険の制度改正、さらには人工知能の発展による業務範囲大変動の可能性など、さまざまな課題がある。この記事では、それらとは異なる観点から、医学部受験に伴うリスクについて掘り下げていく。
医学部の道のり
医学部に進学し、卒業して医師国家試験に合格するまでには、最低でも6年間を要する。その間、進級試験や卒業試験、国家試験の準備に追われる日々が続く。医学部を卒業するには、努力を怠らない姿勢と、6年間続く知的スタミナが必要だ。
普通に努力を重ねれば医学部は卒業できるし、国家試験にも合格できる。しかし問題は、その努力の代償である。「医学部以外の学部で送れたであろう豊かな学生生活」を一度しかない人生から排除してしまう事だ。
初期臨床研修の難しさ
医師国家試験合格後、通常は2年間の初期臨床研修を受ける。この期間は、学校から見たらお客様である学生から組織の末端の社会人の立場になる事に加えて医師という特殊な職業人になる。この2つの大変化を上手にこなせる学生は多くない。現在の初期臨床研修はかつてより時間に余裕があるが、油断するとその後のスキル習得やキャリア選択を誤るリスクがある。さらに、この期間に過労死する若手医師が存在する現実もある。
医師としての日常
初期臨床研修を終え、独立して診療できるようになると、一面識もない多様な背景を持つ患者と日々向き合うことになる。患者の動機は実に多様で、それを理解しながら診療を進めなければならない。詐病や仮病、特殊な目的で診断書を求める患者もいる。こうした業務は医師にとって大きな負担であり、心理的な幸福感を損なう要因となる。
また、患者やキーパーソンとスケジューリングしなければならず、その負担は計り知れない。横柄な患者や攻撃的な態度を取る患者も少なくなく、医師を傷つけたり訴えたりするケースもある。こうした現実を考えると、医師という職業が必ずしも幸福や満足感をもたらすとは限らない。
医学部受験が抱える第2のリスク:経済的な不安定さ
医師といえば高収入・安定というイメージを持たれがちだが、現実は異なる場合もある。保険診療を中長期的に継続できれば収入は安定するが、そのための医師としてのスキル維持や向上に加え、職場である医療機関との相性が極めて重要になる。
職場との相性の重要性
医師の就職の成功は、他の職域と同様に働く人と職場の相性に大きく依存する。医師が求める条件と医療機関が必要とするスキルが一致しなければ、就職は実現しない。職場との相性が悪ければ、退職して場合によっては短期的なアルバイト医師のような働き方を余儀なくされ、収入が不安定になることもある。医療過疎地域で高額報酬を提示しても医師が集まらない事例もある。
医師以外の選択肢が限られる現実
医師としてのスキルは他の職業に応用しにくいため、医師以外の職業に転向するのは困難である。ご子弟が医師になった場合、相性の問題で安心して長期間働ける職場が見つからなければ、医師免許を持ちながらも安定した職に就けないという状況に陥る可能性がある。
結論
医学部受験には、医師という職業が幸福をもたらさない可能性と、経済的に不安定になる可能性という2つのリスクが存在する。親御さんとしては、ご子弟の可能性を最大限に引き出す選択肢が医師だけでないことを念頭に、慎重に判断していただきたい。
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