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突然の動力喪失で、初めてBANに救援を要請しました
先日、シングルハンドでヨットを操船中、エンジン航行中に突然推力を失い、自力帰港が困難となる事態が発生しました。
このときは海上で原因が分からず、初めてBANに救援を要請することになりました。この記事では、その一部始終と得られた教訓を共有します。
海上で突如発生した推力の喪失
セイリングとデッキワークの練習を終え、ホームマリーナへ帰港するためエンジンで航行していたところ、スロットルレバーの動きにエンジンの反応がやや鈍くなり、推力をまったく得られなくなりました。異音や振動は感じられず、ロープの巻き込み、機関系のトラブルなど、原因は判然としませんでした。
位置はホームマリーナまで約800メートルの地点。事前の練習で心身ともに疲れていた事と岸までの距離が近いことから、セーリングによる帰港は困難だと判断し、BANに救援を要請しました。
BANとは?
BAN(ボート・アシスト・ネットワーク)は、レジャーボート向けの海上救援サービスです。加入者であれば、エンジントラブルや座礁などで動力を失った際に、救援艇による曳航を要請できます。
今回のような緊急時には非常に心強い存在です。
曳航と陸揚げ、そして原因の判明
BAN要請後、数十分して、BANから連絡を受けたホームマリーナの作業艇が現場に到着しました。
投錨して待機していましたが、海底の質が柔らかく走錨してしまい、風で流されたヨットはかなり岸に接近し、あと10メートルほどで座礁の恐れもある距離まで迫っていました。
あと数分で座礁してしまうというところで救援艇が到着し、ロープが渡され無事に曳航が開始されました。
その後、ホームマリーナに到着し、すぐに原因分析のため陸揚げされました。
そしてここで初めて、中層を漂っていたロープがプロペラに複雑に絡みついていたことが判明しました。
このような偶発的なロープ絡みは予防も解決も困難
ロープ絡みは目視での予防がある程度はできますが、中間層に浮遊するロープは目視できません。ロープ絡みは予防困難なのです。
そして、シャフト艇の場合のロープ絡みの解決もまた困難です。第一に、推力喪失の原因がロープ絡みと推測することはできても断定はできません。
仮にかなりの確度で推測できたとしても、シングルハンドでは海中に潜ってロープを解くのはあまりに危険です。事故が起きて当人が落命するだけでなく、その周辺の人々や関係者にも多大な迷惑をかけてしまいます。
予備の船外機は有効か?
一部のセイラーは、緊急時の推力確保のために小型の予備船外機を装備しています。
しかし、実際には装着位置やその部位の強度不足でうまく使えなかったという声も多く、万全な対策とは言いがたいのが現実です。
予備エンジンを装備する際は、推力喪失時に装着する部位の位置や強度を適正に見積もる必要があります。
ロープ絡みに対する簡易的な対処法
ロープ絡みが疑われた時は、すぐに逆回転させることで絡んだロープが解くことができることもある……というアドバイスもマリーナスタッフより頂きました。
今回は海上で原因が判明していなかったため試せませんでしたが、今後は念頭に置いておきたい方法です。
シングルハンドでは通信に集中できない現実
BAN本部との通話時、風の影響で携帯電話の通話品質が極めて悪化することに加えて、シングルハンドでは、今まさに目の前で起きている様々な事象に対応しなくてはならず、通信に注意力を集中させることが難しいのが実情です。
そのため、BANとのやりとりにも時間がかかり、正確な位置情報の伝達にも手間取る場面がありました。
現在地の把握と緯度経度の準備
BANへの救援要請時には、自艇の現在地を緯度経度で伝える必要があります。
普段から、自分のGPSのどこに緯度経度が表示されているかを知っておくことが重要です。最近は、GPS内蔵の腕時計もあるので、そういった装備も何かのバックアップになるかもしれません。
今回の体験から得た4つの本質的な教訓
今回の体験で、あらためて実感したのは以下の4点です:
ロープ絡みは予測できない
特に中間層に浮遊するロープは視認困難で、避けようがありません。シングルハンドでは解決が難しい
潜水による復旧は危険で、現実的には断念せざるを得ません。通信は思った以上に困難である
風や波の影響、シングルハンドゆえの多忙さが障壁となります。救援には時間がかかるため、座礁のリスクがある
今回も、あと数分遅れていれば、確実に岸に打ち上げられていたでしょう。
救援要請の判断を出来るだけ早くすることも大切ですが、救援を待っている間に事態が悪化しないようにする工夫も重要です。今回の例では、予備のアンカーをもう1本持っていたら、走錨を防げたかもしれません。
まとめ:小さなトラブルが大きな教訓に
今回の動力喪失は、不意に発生した小さな事故でしたが、対処法と安全対策を見直す大きな契機となりました。
ヨット操船では、万全の予防ができない事態も想定して、冷静な判断と事前の備えが何より重要だと再認識しています。