医者のプライドが高く見える理由②

診察室で、医者は患者との議論はしない。患者を説得したり、考え方の会わない患者に教示したりはしない。

現代医療の診療ガイドラインに沿った治療を受けたくない患者には、熟達した医者なら「あ、そうですか。」で終了。「では次の患者さんどうぞ」ってなる。

多くの場合、医者はすでに多くの事象を考慮した、またガイドライン的にもそのように示唆されている検査法や治療法を選択している。

現時点で最もリスク&ベネフィットが吟味されてい診療を行っているのだ。

そんなところに、患者が知人ネットワークや雑誌やテレビで仕入れた民間療法レベルについての意見を医師に求めても、医師の答えは端的にいって「お好きにどうぞ。それは医学の範疇ではないので私は無関係です」との心持なのだ。「私を巻き込まないでください」ともいえる。

私の肌感覚だが、1日に数人そういう質問をしてくるかかりつけの患者がいる。いままで何年も同じ方針で治療をしてきて、血圧や血糖、資質ののコントロールがついているのに、友人達やマス媒体からの知識で急に不安になったのか、「いまの治療法でいいんでしょうか?」みたいな質問をしてくる。

この質問は、医師に向けられるべき質問ではない。なぜなら、患者は友人ネットワークやマスメディアからの情報で不安に思っているのだから、その不安は医師ではなく、情報発信者が引き受けるべきではないだろうか。

別のケースを考えてみよう。ある患者は長年に亘り自分が糖尿病と知らずに過ごしてきた。私が糖尿病を見つけた時には随分と悪化していた。

『理屈コネ太郎』の専門は消化器外科なので、一応膵臓腫瘍の存在を否定してから、糖尿病の専門医に紹介して治療を開始してもらった。

すぐにインシュリン注射が始まり、数値はどんどんよくなったので、ある時点で今後の継続処方を『理屈コネ太郎』がする事になった。

『理屈コネ太郎』が再び担当するようになって2週間後くらいから、患者の両大腿から硬いにかけて強い鈍痛が発生したのだ。

当然患者は不安になり、私に意見を求めてきた。そう、これは患者と意思の間で話し合うべき話題だ。早速次の診察の時に、それは糖尿病の治療後に出現する治療後有痛性障害である旨を告げて、幸い今は疼痛コントロールの方法もあるから、糖尿病の治療を今のまま続けます。この痛みは、インシュリンによる治療が原因ではなく、長く糖尿病を放置した事による痛みなのです。と説明した。

この患者は納得して、それから数年かけて治療後有痛性神経障害から徐々に離脱し、いまは殆ど痛みを感じないし、血糖のコントロールも良好である。

ここで考えて欲しいのは、もしこの患者が治療後有痛性神経障害を発症せず、順調に決闘管理もできていたのに、友人ネットワークやマスメディアで聞いた民間療法をインシュリン自己注射よりも選びたいといったらどうだろう。

『理屈コネ太郎』としては医学外の選択肢を選ぶ決断に責任を負わせれたくないので、医学的には現在のやり方がスタンダードですが、もし民間療法を選びたければそれはご自由にしてください。ただその場合でも、インシュリン自己注射の継続はした方がいいですよ。とのアドバイスはする。

あるいは、その民間療法はなんのエビデンスもないのでおやめになった方がいいと思います。くらいの事はいうかも知れない。

しかし説得して患者の考え方を変える事はしない。

この民間療法の効果やそれを選んだ患者に責任を持つのは、その民間療法を製造し販売し宣伝している人達であって、決して医師ではない事を理解して欲しい。

だから医師に民間療法について質問するのはお門違いなのだ。

この点を理解していない患者と遭遇すると、医師はどんなに人間修行が出来た人物でも一瞬顔を強張らせるだろう。

悪い地元の先輩に唆されて正しい道を踏み外そうとしている学生を、いま目の前にしている教師の気分といえば分かり易いだろうか?

こういう人達への自分の無力に腹が立つ事はしょっちゅうある。手術とか抗がん剤療法とか、そういう辛いが効果が実証されている方法を避け、民間療法を選ぶ人は数多い。

そして一度は自ら選んだ民間療法に絶望してなんとかしてくれと言って再び受診してくる患者も少なくない。しかし、この段階ではもう打てる手段が何もの残されていない状況だったりする。

もう、本当にむなしい瞬間だ。とはいえ、我々はプロだ、次に診察室に入ってくる別の患者は良い雰囲気で迎えなくてはならない。

『理屈コネ太郎』の考えはこうだ。現代医療の方法で治療したくないと思う人は、それはその人の責任において好きに決断すれば良い事だ。

ただし、質問する相手を間違えないこと。民間医療がよいかどうかを質問する相手は間違っても医師ではない。

質問すべき相手はその民間療法を宣伝している人達だ。彼らに、彼らが宣伝している民間療法が現代医療の治療成績より上なのかを尋ねてみて欲しい。

多くの医療者は受診者とWIN WINの関係になりたいと思っている。それは、現代医療はインフォームドコンセント以来、患者の望まない医療行為は行わなくなったこと。それから、医療機関にもよるが、慢性的に患者の数が多く待合室はいつも患者で一杯で医療者が疲弊しきっていること。

だから、現代医療の治療方針を望まない人にあまり時間を割けない。というより割く意味がない。

20年位前は昔は患者を説得する親切な医師や看護師がいてくれた。しかしインフォームドコンセントの考え方が広がるにつれて、それは無用の仕事になっていった。

ハナシを元に戻そう。医師がプライドが高く見えるのは、診察、検査、病棟管理、手術などの業務で多忙を極めているときに、患者から発せられる「は?」な筋違いやお門違いの質問に堪忍袋の緒が切れやすいからだろう。

これは医者に限らず、どの業種でも同じではないだろうか? 自分がやるべき業務を時間を惜しんで頑張っているときに、筋違いやお門違いの質問を投げかけられて、大抵の人は嫌な顔をすると思う。

繰り返しいうが、テレビやマスメディアで宣伝している民間療法、友達ネットワークで仕入れた情報について医師に質問しない方がいい。医師にとっては専門外だから責任を終えない。そもそもそんな民間療法は知らないし。

では誰に質問するべきなのか。民間療法ならその民間療法を開発したり販売したり宣伝したりしている人達。

友人ネットワークからの情報については、ネットなどでご自身で調べて判断して欲しい。

今回の記事に関連する記事には以下より。

医者のプライドはそんなに高くない』へは”ココ”をクリック

医者のプライドが高く見える理由①』へは”ココ”をクリック

医者のプライドが高く見える理由③』へは”ココ”をクリック

今回は以上。

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